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12話 燦々と登場キュアイリオ!!

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-04-25 07:00:25

「うぐっ!!」

奴の突進が私のお腹を捉える。私は吹き飛びコンクリートの壁に叩きつけられ痛みで意識が遠のく。

(これ……まずいかも……)

全身が痺れ足が動かなくなる。そんなことお構いなしに奴は再びこちらに向かって突進してくる。

足は動かない。魔法で押し返そうにも痛みで意識を集中させられない。こんな状態じゃ希望が高まることもない。

(ごめん……波風ちゃん……私約束を守れないみたい……)

眼前まで奴が迫ってくる。命を刈り取る威力の回転が今まさに私に命中しようとする。

「させないっ!!」

しかし真横から勢いよく炎が吹き出してきて奴の突進の軌道を変えさせる。亀は私の左斜め上の壁に激突してコンクリートに突き刺さる。

「えっ……誰……?」

現れたのは緋色のドレスを身に纏った見たことのないキュアヒーローだ。

《誰だあれ!? まさか新しいキュアヒーロー!?》

《配信が立ち上がってる! 新しいキュアヒーロー……キュアイリオだ!》

(キュアイリオ……まさかあの子……!?)

彼女が近くに来ることで顔がはっきり瞳に映りその正体がすぐに分かる。毎日じっくり見ているその顔……波風ちゃんだ。

「大丈夫? た……」

「あぁ待って待って!! 本名言っちゃだめ!! 配信ついてるから!!」

《ん? た……なんだ? 本名!?》

《リアバレ来たかこれ!?》

盛り上がりに飢えている視聴者達は私の本名がバレかけたことに興奮し、イリオが現れたこともあり気づけば視聴者数が跳ね上がっている。

「あっ、そうだった……えっと、ウォーターって呼べばいいの? とにかく大丈夫?」

「うん……助けてくれてありがとうイリオ」

私はイリオから差し出された手を掴み立ち上がる。もう一人ぼっちではない。二人になり私の中から希望が溢れてくる。

「"二人"で倒そう……アイツを!!」

「うん……いくよイリオ!!」

私達は壁から抜け出した奴に向き直り構える。不思議と彼女が隣にいるだけで痛みが引いていき勇気が貰える。二人ならなんでもできそうな気さえしてきた。

まず奴が回転しながらこちらに向かってくる。私とイリオはそれぞれ別方向に避けつつ手に魔法の力を溜める。

「ウォーターショット!!」

「フレイムショット!!」

私は力を手に溜めて
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    「なるほど……イカのイクテュスに喧嘩する二人のキュアヒーロー……いやぁ興味深いね」 あの日帰ってから私達は倒れる様に寝ていつもより少し遅い時間に目を覚ます。そしてイクテュスと戦ったことを健さんに報告し、家まで来てもらってあったことを話しそれを記録してもらっていた。 「何が興味深いだ。二人の険悪さは深刻な問題なんだぞ」 キュアリンもこの場に呼んであり、私達が戦うより前の事も彼に話してもらう。 「大体情報はまとまったよ。つまりあのイカのイクテュスは小学生くらいの男の子が好物だというわけだ。動物には個体によって食事の好みがあるみたいにね。それにイクテュスになって異常を体にきたしたとすれば人間を襲うようになるのにも納得がいく」 健さんは難しそうな本を見つつもノートに私が知らないような漢字や単語を書いていく。 「ねぇ波風ちゃん……もしかして朋花ちゃんの弟も……」 「あっ……だとしたら……」 捕食された。そんな最悪な結末が容易に想像できてしまい、それが現実になった場合の彼女の反応をイメージし心を痛める。 「いやまだ希望はある。キュアリン。奴が出没した地域で血痕が残っていたりはしたかい?」 「俺が見た範囲ではないな」 「路上で捕食したなら騒ぎになるレベルの血痕が見つかっていないとおかしい。なら奴はどうしたのか……どこかに連れ去った可能性が高い」 「連れ去ったって……どこに?」 「そこまでは流石に。でもまだ死に至っていない可能性もある。正直可能性は半々だけどね」 それならまだ希望が持てる。だが肝心のイクテュスの居場所が分からない。いつもどうやって見つけているのか分からないがキュアリンもお手上げのようだ。 「いや待てよ……その年齢の男の子を襲うなら……もしかしたら連れ去られた場所が特定できるかもしれない」 「本当!? どうやって!?」 私は一筋の光にしがみつくようにキュアリンとの距離をドタドタと詰める。 「そ、それは言えない……ただ奴が対象を連れ去る習性があるならほぼ確実に行方不明の子は見つかる」 「また言えないの? そういえばキュアリン達っていっつもどうやってイクテュスの場所を特定してるの? SNSとかニュースよりも早いし」 「それは秘密なんだ。お前らには現段階では教えられない。ただ何も人間に迷惑をかけるようなことはしていない

  • 高嶺に吹く波風   21話 犠牲者M

    「えっ……死んだって、イクテュスに殺されたってことなの……?」 「そうなるのだ。あの時はノーブルとフィリアの二人体制で配信してたのだ」 その頃のことは朧気にしか覚えていないが、二人だけの時期もあったような気もする。それくらいフィリアの記憶は曖昧で頭の中に残っていない。 「フィリア……翠はあまり戦いに向いている性格じゃなかった。僕も途中で辞めるようそれとなく伝えたけど……優しい彼女はほんの少しでもノーブルの力になりたくて……負担をかけたくなくて……それに親友の神奈子に危害を及ばせたくないって断ったのだ」 まるでこの前までの私と波風ちゃんの関係のようだ。翠さんと健橋先輩の立ち位置は。 「二人はキュアヒーローが同種族の希望を力に変換して強くなるっていう仕組みは知っているのだ?」 「そういうのは私も波風ちゃんもキュアリンからしっかり聞いたよ。だから配信して希望を集めてるんだよね?」 「そうなのだ……でももしイクテュスを倒す頻度が落ちて人気がなければ、有限の希望を独占されたらどうなると思うのだ?」 希望の独占。言い方は悪いが恐らくノーブルの方が活躍しすぎていたのだろう。実際に当時の彼女の配信は今でも印象に残っているが、フィリアの方は全く記憶にない。 「希望が集められなくて弱体化するのよね? まさか……」 「そうなのだ。弱ってついには変身道具依存の配信機能も壊れて変身すら維持できなくなって、最後はイクテュスに……橙子も必死に助けようとしたのだ。でも間に合わなかったのだ。そして最悪なことに吹き飛ばされた翠は通りかかった神奈子の前で……」 リンカルは言葉を詰まらせそれ以上何か言おうとはするが喉元で停滞するだけで発さない。 「もういいリンカル。ここからは俺が説明する」 キュアリンがリンカルの背中を摩り下げさせる。 「代わって説明するが、神奈子がキュアヒーローの力を憎んでいるのはそれが原因なんだ。 それにあいつが使っているブローチは……翠が使っていたものだ」 健橋先輩と翠さんを私達と重ねてしまっていたので、想像するだけで胸の奥がキュッと締め付けられる。そして健橋先輩の怒り様に納得してしまう。 「あいつは全てを知り橙子や俺達を憎んで、橙子は自らの罪を受け入れて償おうと、それでもって許されようとはしない。その結果が互いにキュアヒーローを辞

  • 高嶺に吹く波風   20話 失われたもの、戻らない者

    「リンカル……そこを退け!! そいつにキュアヒーローとしての資格なんてない。アタイが倒してそのブローチを叩き壊してやる……!!」 「全く君は相変わらず荒々しいね。そんな性格で人助けは向いてないよ。君こそそのブローチをリンカルに返却してキュアヒーローを降りたまえ」 リンカルと呼ばれたハムスター? のような見た目のキュア星人が止めようとするものの二人とも聞く耳を持たない。 「お前ら何やってるんだ!! キュアヒーローの力を行使したイクテュス以外への攻撃行為は許されていないぞ!!」 そこにキュアリンも来て二人を説得する。理論を加えることにより二人もとりあえずは力を解き殺意を抑える。 「ねぇ……二人ともどうしたの!? 配信ではあんなヒーローしてたのに、何でキュアヒーロー同士で……私達はみんなの笑顔を守るヒーローじゃないの!?」 ノーブルはバツが悪そうに視線をこちらから逸らす。だが対照的にアナテマは私を睨みつけ先程ノーブルに放っていたものを私に向ける。 「ふざけるな……何が正義ヒーローだ……!! キュアヒーローはそんな希望の力じゃない……こんなの人を狂わす呪いの力だ!!」 アナテマは胸にあるブローチを強く握り締める。そして私の方に近づいてきて胸元に、ブローチの方に手を伸ばす。 「ちょっ……何するのやめてよ!!」 私は咄嗟に後ろに下がりブローチを守る。彼女は目に見えて不機嫌になるが後ろからノーブルが睨みつけ牽制する。 「お前らなんかがこの力を使えこなせるもんか。死にたくないならとっととこんなこと辞めて日常に戻るんだな」 アナテマは捨て台詞を吐き闇に溶けて消えていく。 「はぁ……アナテマ……いや神奈子は相変わらずだな」 「えっ……神奈子って、もしかしてあの健橋神奈子!?」 「いやいやそんなまさか。かなこって名前は一般的だし同音の別人よきっと」 「君達……健橋神奈子を知っているのか!?」 しかしノーブルの反応はまさかのもので、変身を解除しつつ、桐崎橙子の姿へと変わって私達の方に駆け寄る。 「えっ……橙子さん!?」 「ん……? そうだが君達は?」 「私達です! 今日下校する時に会った……」 私達も変身を解いて素性を晒す。これには橙子さんも飄々とした表情を崩す。 「いいのかリンカル? 私生活に無駄に関わらせて?」 「彼女達

  • 高嶺に吹く波風   19話 光と闇の錯綜

    「ぐっ……うぉぉぉ!!」 私に二体のイカ達が飛んできて、ただでさえ多い足は二倍となり計四本の手足では対応しきれない。 「きゃっ……!!」 猛攻についに耐えきれず私とイリオは防御を崩されて胴体がガラ空きになってしまう。 「シャインブレイド!!」 「ブラックホール!!」 私の前に光のオーラが割り込んできて奴らの足を数本切り飛ばす。 イリオの方のイカは引っ張られるように真横に飛んでいきその先に居た人にまとめてボディーブローを受ける。 「アナテマとノーブル!?」 私達のピンチに現れたのは他の二人のキュアヒーローであった。その強さは新人の私達とは比べ物にならず一瞬にして形勢が逆転する。 「二人ともありがとう! 本当にたすか……」 「こらこらウォーター。戦闘中は敵を見ないと」 「あっ……すみません」 コメントでも安堵する声がある一方前を見ろとちょっと辛辣めなコメントが目立つ。 (だめだめ私! ちゃんとみんなの役に立てるようにならないといけないのに……) 気持ちを切り替えて私はすぐにノーブルが足を切った内の一体に向かう。他の三人もそれぞれイクテュスを倒すべく詰め寄っていく。 「マジックアクアレイン!!」 私は己の身を守る役目も与えるべく自分の眼前に雲を出現させ奴に鋭い雨の矢を浴びせる。 だが良いところで奴は拘束を逃れてイリオの所まで向かう。 「ちっ……いかせるか!! イリオ気をつけて!!」 だが奴からはもう戦闘をする意思がなくなっていた。イリオの前に居た個体も共にくっつき今度はノーブルの方に飛んでいく。 「なっ……!?」 トドメを刺す直前だったが二体のタックルにより目の前の個体の位置がズレて光の剣が空を切る。そしてそのまま奴らは体から湯気を出して縮みながら合体し用水路の中に逃げていく。 「待てっ!!」 私達三人が追いかけようとするがアナテマの前の個体が飛び出してきて邪魔する。 「お前の相手はアタイだっ!!」 しかし闇の力で引っ張られアナテマにタコ殴りにされ、そして鋭い蹴りがトドメとなり奴は灰になって崩れ去る。 「途中から完全に逃げる気だったね……わたしとしたことが不甲斐ない。あの個体の性格……自分からわたし達の前に現れることはもうないだろう」 私達に送られるあの反応はキュアリンらが撃つGP

  • 高嶺に吹く波風   18話 楽園はどこか

    波風ちゃんが専用のリモコンを操作して映画を選択する。前々から一緒に見ようと決めていたアニメ映画だ。 まさに今の私達キュアヒーローのようなヒーローもので、本編とは違う世界線を描いたストーリーらしい。ジャンルはSFのあぽかりぷす? というジャンルらしく、怪人が人間に完全に成り代わってしまった世界が舞台となっている。 「やっぱりこの作品って怪人側のドラマもしっかりしてるよね……」 怪人が多数となった世界でも人間との共存を訴える三人の怪人がフォーカスされる。ヒーローとも話し合い人間と怪人の着地点を見つけようと悩む主要人物達。そこにあるドラマは深くつい私達は現実同様に彼らを見てしまう。 「もしかしたらイクテュスにもこういう考えを持ったのかいるのかな?」 「それはないんじゃない? あいつら悪さをするというより知能なく暴れてる感じだし」 「それもそうか……よかった」 もしそんなのが居たとしたらとてもやり辛いし、今まで倒してきたイクテュスに対しても殺人の側面が出てきてしまう。 映画は人間派の怪人は全員倒され、最後は生き残った主人公とヒロインが夢を引き継いで歩いていく形で終わった。 未来がありつつも明確な悲劇と終わりが垣間見える結末。面白かったが自然と彼らに自分自身を投影していた私達は複雑な気持ちになる。 「そういえば高嶺はみんなの笑顔を守りたいからキュアヒーローになったってことでいいの?」 「うんそうだね。やっぱり波風ちゃんならすぐ分かっちゃうよね」 この気持ちを切り替えたく、大勢のエキストラのスタッフロールが流れる中波風ちゃんから話題を振ってくる。 「他の二人……アナテマとノーブルってどんな人なんだろう? 高嶺は何か知らないの?」 「アナテマとはまだ会ってないし、ノーブルは自分のこと話したがらないし……キュアリンに聞いてもプライバシーの都合って言って教えてくれないし」 他のキュヒーローにもそれぞれの私生活がある。私がそこに触れることをキュアリンは許してくれない。 トラブルがあった場合は集合等させるかもと伝えられているがそれも起きない。テレパシーはキュアヒーロー間でも繋げられるがそれが使われたことはない。ノーブルもアナテマもそういうのには積極的ではない。 「じゃあ次はどの映画を……」 [お前ら大変だイクテュスが出た!!]

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